シーサーアリガトォ-!

 十一年前の1998年(平成10年)4月3日にシーサーの日(4シー、3サー)を提唱して那覇市立壺屋焼物博物館で催した「うりずんの漆喰シーサー・シーサーの日展」を始めて以来、今年で第十一回目を迎える「シーサーの日」。
 多くの方々のご理解のもと支えられ、定着してきたシーサーの日ですが、ここに新たな展開として「シーサーありがトォー!」というコンセプトを打ち出したいと考えています。

 古より、颱風や様々な災いから沖縄の人々の生活を守ってくれているシーサーですが今までそのシーサーに感謝のかたちをあらわす機会はほとんどなかったように思います。シーサーは沖縄の島の生活、歴史、環境、それぞれに関わって生まれた神様です。ときに時代とともに変化する私たちの生活にしなやかに寄り添いながら、いつも見守ってくれている、おおらかで頼もしい守護神です。そんなシーサーと、少し話してみてはどうでしょうか?人には素直に言えない言葉、弱い心や強い決心、どんな心もシーサーは静かにしっかりと受け止めてくれるはず。島のあたたかで確かな時間を感じながら「ありがとう」のこころを、シーサーを通して繋げていけたら、と考えます。
 身近にありすぎるゆえに日常に埋もれてしまい、じつは大切な感謝の気持ちも薄れてしまっているかもしれません。新たな視点で自分を振り返りまた、自分を取り囲んでいる環境を見直す機会として「シーサーの日」がそのきっかけになれば素敵なことだと思います。
 身近な人々、たとえば親兄弟、学校や職場の人たち、近所の人たち。それに、いつもの見慣れた景色や毎日のごはん等々。普段は当たり前と思っていることも、実は大切な繋がりがあると思います。昨今ではその大切さを実感する時間や機会が少なくなっていることも感じます。また、現代では交通機関は発達し、携帯電話やインターネットの登場で人々の生活の「時間」はどんどん加速度を増しています。本当に大切なのは実はこの「時間」なのではないだろうか?失くしていけないのはこの「時間」なのではないかとも思います。あらためて、ゆっくりと立ち止まってみるのも良いと思うのです。
 今回の「シーサーの日展」からは、具体的に「感謝」の気持ちを表していこうと思います。「大切なもの」をあらためて思い描いてみよう。そうしてその心が社会に、人々に広まっていくことでより、沖縄の伝統的な宗教観であったり調和の哲学を振り返る機会にもなれば幸甚であると考えています。

○シーサーと菓子

 「『シーサーの日』には感謝の気持ちをつなげよう」という思いをより分かりやすいかたちとして、お菓子をテーマに展開したいと考えます。沖縄には伝統的な「琉球菓子」があり、年中行事や祭りなどの節目に様々なお菓子が供されます。「チイルンコウ」「ちんすこう」「詰餅」「鬼餅」などなど、数多くの沖縄独特の菓子。中でも沖縄を代表する菓子として有名なのが「ちんすこう」です。琉球王朝時代に料理座の庖丁人たちが冊封使の食事を賄うために福州で習得した中国菓子と薩摩から学んだ日本菓子を琉球独自の菓子としてつくりあげ、元来は王族や貴族のみが食することができる菓子とされてきました。 ちんすこうの由来は、中国の蒸し菓子をアレンジしたものだとかポルトガルの焼き菓子だとか諸説があります。
 ちんすこうは元々、丸い菊型が一般的でしたが戦後、アメリカ軍基地で使用されていたクッキー型を再利用した一口サイズの細長いおなじみの型に改良されました。同時期に大量生産も実現し、現在に通じる形が確立されました。
 今では沖縄土産として知らない人はいないほどの「ちんすこう」ですが、そのシンプルな形の中に沖縄の歴史までもが詰まっているのです。日常的にお茶請けとして食する機会も多い「ちんすこう」を「ありがとうの心」として贈り、その心を繋げていきたい、との思いがあります。

 菓子の歴史はすでに1万年前からとも言われています。日本では文字のごとく、はじめは「果実」のことであったそうですが中国との交易などにより「唐菓子」が生まれ、次第に茶道や仏教の影響を受け「和菓子」として様々に発展してきました。栄養を求める「食事」としてだけではなく「味覚」の追究として菓子は発展したとも言えます。
 芸術もまた、日常生活の中では確たる役割を持ち得ません。「美」の追究としてあるいはまた別のなにものかを追究するものとしてあるのだと考えています。

しかし、それらはすべて人間の生活から生まれてくるものでもあります。生活の「味覚」、芸術とはそう言い換えても良いかも知れません。

 古代メソポタミアの王朝宮殿跡からライオンの菓子型が出土したり、ちんすこうの菓子型がクッキー型であったり。時代を超えて、国を超えて繋がるのは人々の確かな「生活」なのです。

ありがとう。
そっとお菓子を頂いたときに、自然に漏れ出る言葉と笑顔。幼い子供から老人まで、すべての人々が見せる素直な気持ちをシーサーにのせて繋げて行きたい。

そんな思いから「シーサーと菓子」をテーマにしたのが今回の「シーサーの日展」であります。

 その他、「シーサーの日」にふさわしく、ギャラリー中に天才光男の過去作品から最新作品までを一堂に展開し、まさに「天才光男・シーサー博覧会」ともいえる濃密な空間を演出して、つねに躍動するシーサーの魂を表現します。



special thanks to